Cure(治療)からCare(予防)の時代へ
これまでは「歯医者には、歯が痛くなったり歯ぐきが腫れたりしてから行くもの」という考え方が主流でした。また、歯科医師側も「悪くなった歯を治すこと」を仕事と考えていました。しかし近年は「歯医者は、歯が悪くならないように予防するところ」という考え方にシフトしてきています。つまり、治療より予防を重視する世の中になってきたといえます。この考え方は、歯科先進国ともいわれるスウェーデンやフィンランドで成功し、日本でも取り入れられるようになりました。
むし歯ができる仕組み
むし歯を予防するために、まずは「なぜむし歯ができてしまうのか」を理解することが大切です。むし歯は、歯垢(プラーク)という最近のかたまりが原因で発症します。ここでは、むし歯(ミュータンス)菌の活動からむし歯発生までの流れをご説明します。
むし歯(ミュータンス)菌の活動の様子
食後に歯磨きをせずに放置していた場合の例です。
- お口の中には常にむし歯(ミュータンス)菌が生息してします。このとき、お口の中は中性です。
- 食事をしたあと、お口の中に残った糖分をむし歯(ミュータンス)菌が摂取し、歯垢(プラーク)をつくり出します。
- むし歯(ミュータンス)菌が増殖し、歯の表面にバイオフィルムという膜をつくると、お口の中がネバネバしてきます。バイオフィルムができてしまうと、歯の表面に強力に付着するため、抗菌剤などの薬剤が歯の表面まで浸透するのを妨害し、頑固なものは歯磨きでは取り除けなくなります。
- バイオフィルムで守られたむし歯(ミュータンス)菌は糖を発酵させ、乳酸などの酸を生成します。お口の中は酸性にかたむき、むし歯になりやすい環境が整ってしまいます。
- お口の中は唾液のはたらきで常に中性に戻ろうとしますが、酸性度が一定の濃度に達してしまうとなかなか中性に戻らず、歯は表面から高濃度の酸で溶け出し、むし歯になってしまいます。この状態を「脱灰」といいます。
脱灰と再石灰化のバランス
お口の中では、歯を溶かす「脱灰」と歯を守る「再石灰化」が同時に行われています。これらの均衡が取れていれば健康な歯を保つことができますが、そのバランスが崩れるとむし歯の原因となります。不規則な生活や糖を多く含む食物の多量摂取、唾液の殺菌・抗菌作用が何らかの要因で薄れるなどが原因でお口の中が酸性になると、そのバランスが崩れてきてしまいます。
フォンズ法
歯の表面を磨く歯磨きの方法です。マッサージ効果も高く、清掃能力もあります。歯ブラシの先端を歯肉に当て、歯の面に直角に、円を描くように動かします。
バス法
歯と歯ぐきの間の歯垢を取り除く方法です。歯ぐきのマッサージもできるので、歯周病と歯肉炎の防止にも効果的です。歯に対して45度の角度で歯と歯ぐきの間に歯ブラシの毛先を入れ、毛先が離れないように前後に細かく歯ブラシを動かします。
歯ブラシの正しい選び方
せっかく正しい磨き方をしても、自分に合っていない歯ブラシを選んでいたらその効果を十分に発揮することはできません。正しい歯ブラシを選び、効果的な歯磨きを行いましょう。
毛の硬さ
ふつう…いわゆる一般的な歯ブラシ。歯垢を落とすのに適しています。
やわらかい…歯肉炎で出血しやすかったり歯茎が弱っている方向けです。
かたい…ブラッシングが弱めの方に向いています。
毛の材質
ナイロン…一般的な材質です。使っているうちに吸水性が上がるので、定期的に交換しましょう。
動物の毛…使用感は良いのですが、細菌が付着しやすいのであまりおすすめではありません。
持ち手の形状
自分が持ちやすいと思えるものが一番ですが、ネック部分はあまり細くないものがいいでしょう。細いと磨く力が伝わらないため、ある程度しっかりしたものがおすすめです。
その他の予防方法
デンタルフロス
デンタルフロスは、歯と歯の間の歯垢(プラーク)を最も効果的に落とす掃除用の糸です。歯の隙間が狭い方にお勧めします。
通常30cm程度の長さに切り、両手の中指か人差し指に巻きつけて使います。デンタルフロスを歯間部に滑らせるように入れ、両側の歯の側面に沿わせて動かし歯垢(プラーク)を除去します。
歯間ブラシ
歯間ブラシも歯と歯の間の歯垢(プラーク)を落とすための清掃器具ですが、歯の隙間が広い方にお勧めします。歯間ブラシにはさまざまなサイズ、形(I字型、L字型)があるので、使用する部分の隙間の大きさにあったものを選びましょう。歯間ブラシの毛先を歯の間にゆっくり入れ、前後に動かして歯垢(プラーク)を除去します。歯ぐきを傷つけないよう、力加減に注意して使用しましょう。
フッ素洗口
フッ素洗口とは、歯磨きのあとにフッ素配合の「デンタルリンス」「マウスウォッシュ」などと呼ばれる洗口液で洗口(うがい)するむし歯予防法で、ご家庭で簡単に行うことができます。フッ素には、歯の表面(エナメル質)を溶かす酸への抵抗力を強めるはたらきがあり、歯の表面に塗ったり洗口することでむし歯を予防する効果があります。
キシリトールの摂取
キシリトールガムの大ヒットでご存知の方も多いと思いますが、キシリトールとは、白樺などの樹木から抽出した成分を原料とする天然甘味料です。イチゴやほうれん草などの野菜や果物にも含まれ、私たちの肝臓でも毎日つくられています。欧米諸国など世界各国でむし歯予防に使われており、日本でも1997年4月に厚生省(現在の厚生労働省)が食品への利用を認可しました。手軽にキシリトールを摂取できるキシリトールガムには、むし歯の抑制・予防効果があります。
キシリトールガムの効果
- むし歯(ミュータンス)菌がキシリトールを分解しても「酸」をつくらず、バイオフィルム(お口のネバネバの原因)もつくりません。
- 歯垢(プラーク)を形成している菌の力を弱めるはたらきがあるため、歯垢(プラーク)を歯磨きで簡単に落とすことができます。
- 唾液の清浄作用・緩衝能が高まり、お口の中の酸性度を中和します。
- 唾液に含まれるリンやカルシウムが多くなり、歯の「再石灰化」のはたらきが強まります。
医院で行う予防
プロフェッショナルケアの代表はPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)です。「歯のエステ」ともいわれるPMTCは、毎日の歯磨きだけでは落としきれなかった汚れを専用の器械を使って落とす歯のクリーニングです。きちんと磨いているつもりでも完全には磨ききれないので、定期的に受けていただくことをぜひおすすめいたします。
むし歯ができる原因や条件を知ることにより、自然と予防への意識が芽生えてきます。あとはほんの少しの努力や心がけでいつまでも健康な歯を守ることができるのです。
歯を守るために必要なことは、ご自身で行う毎日の「セルフケア」とセルフケアでは行き届かない部分を歯科医院で行う「プロフェッショナルケア」です。生涯、1本でも多く自分の歯を残せるように、私たちといっしょに予防に取り組みましょう。